龍宮淵と カワウソ淵

(りゅうぐうふちとかわうそふち)

 長門峡(ちょうもんきょう)は、深い淵(ふち)となったり、浅瀬(あさせ)となったり、あるいは小さな滝となって流れていく水がつくりだした美しい渓谷(けいこく)です。この長門峡の中ほどの淵は、その水底に竜宮があるとの言い伝えから、竜宮淵(りゅうぐうぶち)と呼ばれておりました。

さて、昔々長門峡のそばに、一人の猟師(りょうし)が年老いた母親と住んでおりました。

ある冬の日のこと。猟師が獲物をさがして、竜宮淵のへりを通りかかりましたところ、

 

「もうし、もうし」

 

と呼ぶ声がします。猟師が立ち止まると、どこからともなく、若く美しい娘があらわれ、

「この淵のあたりは、化け物が出て、通りかかる人をおそって食べてしまいます。どうぞ、あなたの弓と矢で、その化け物を退治してください。どんな望みのものでも差しあげます。」

 

そう言ったかと思うと、すうっと消えてしまいました。

猟師は、それから毎日、化け物を退治するために、さがして歩きまわりました。

ある日の夕方、猟師はついに化け物に出会いました。らんらんと輝く目、大きな口・・・。

 

「おのれ化け物め。」

 

猟師は力をこめて矢を放ちました。

ギャーッという声があがって、化け物はどおっとたおれました。それは、全身銀色の大カワウソでした。猟師はそれを川まで引きずっていき、淵に投げ捨てました。

そして、疲れきった猟師が岩の上でついうとうとしていると、このまえの娘がまたあらわれて言いました。

 

「化け物を退治してくださり、ありがとうございました。お礼をいたしますので、この船にお乗り下さい。」

竜宮に迎えられた猟師は、たいへんなもてなしを受け、月日のたつもの忘れて、毎日、夢のようにすごしておりましたが、やがて母のところへ帰りたくなりました。

 

いとまいごいをして帰るとき、竜宮の人々はたくさんの宝物をくれました。猟師はそのおかげで、かわかみ一番の長者となり、母としあわせに暮らしたということです。