空かける化け物

 今から400年も昔の話です。ある夏の夜、一人の若者が、突然腹をおさえて苦しみはじめ、手当のかいもなく、あっというまに死んでしまいました。ちょうど同じ時刻に、その若者の家からあやしいけむりが立ちのぼり、おそろしい化け物があらわれたのです。そして化け物は夜どおしあばれまわり、ぶきみな鳴き声が村の空をかけめぐりました。

ようやく夜が明けたとき、貧しけれど平和だった村のようすは、むざんにかわりはてておりました。あちこちに体をひきさかれた牛や馬の死骸がころがり、人々は病気にかかり、わけのわからないまま次々と死んでいきました。小さな村はえたいのしれない化け物の住む村になってしまいました。

 最初に死んだ若者のなかまに、弓矢のじょうずな3人の若者がおりました。幸い、この3人はまだ元気でしたので、集まって化け物退治の相談をしました。そして村はずれの家によく太った牛をつないで、弓に矢をつがえて物かげにかくれ、化け物があらわれるのを今か今かと待っておりました。

 そのうち、どこからかなまぐさい風が吹いてきました。おそろしい声がひびき、化け物の鋭いツメが屋根をけやぶり、牛をめがけておそいかかりました。3人はここぞとばかりにいっせいに矢を放ちました。矢はねがいたがわず、化け物に命中し、化け物は青黒い血を流して、深い谷へ落ちて行きました。

 2日後、今までだれも見たことのないような大きなうなぎの死体が、川を流れていきました。村人たちは何かの霊にちがいないと話あい、明神様にまつりました。
それからは病気にかかる人はいなくなり、牛や馬もおそわれなくなったということです。

 

的を化け物に見たてて矢を射かけるという、横坂の明神社の「的祭り」はこの伝説に由来するもので、これからも守りつがれていくことでしょう。