今では知る人も少なくなったが、昔、江戸時代のころから、土地の若者たちが力くらべをするときには、力石という重い石を抱えあったものだった。力石は重さ20貫から50貫。
1貫はだいたい4キロだから、今の単位で80キロから200キロになる。紫福の文殊堂や上野山八幡宮に残る力石はそれより小さく、50~60キロほどのものだ。
遠い昔の祭の日――。
寺の境内や神社に集まった力自慢の若者たちは、顔を真っ赤にそめ、両腕とふんばった足に力をこめて、つぎつぎと力石にむしゃぶりついた。なかでもひときわ重い石になると、なかなか持ち上げる者がいなかった。それまで見物にまわっていた若者が、のっそりと力石の前にあらわれた。この前の祭のときには、最も重い力石をみごと抱え上げた男だ。さすがにこの男はほかの若者たちがもてあました石を、ぐらっと持ち上げてみせた。が、そこで腕にひきつった筋が走った。膝の高さまで持ち上げたところで、男はたまらず石を落としてしまった。「こりゃあいけん。ちいと体をきたえなおさにゃあならん」